海外市場で求められる「和の強み」とは‐日本のアパレル製造業は未来に向かって躍進する
バンコク市場でのビジネス展開で、日本製品の真の価値と商機を確信
和興は、海外市場開拓に挑戦します。今現在、複数の商談がまとまり推進しています。
きっかけは2023年にタイのバンコクで行われた展示会でした。
現地で多くのブランドやアーティストと話をする機会を得て、決意を持って進む覚悟ができたのです。
ただ、それは決して「日本ブランドが期待されている」というような単純な話ではありませんでした。親日家が多いと言われるタイでも、商談となればそこまで甘い話はないのです。
しかし同時に、「日本ならではの強み」に需要があることを、私はバンコクでの多くの商談の中で実感することができました。
我々には我々の強みがあり、それが一陣の風を巻き起こす可能性を強く感じたのです。
この記事が、日本のアパレル業界をより元気にするきっかけとなることを祈って。
きっかけは2023年、バンコク展示会での出会い
2023年、タイのバンコクで、東京国際ファッションセンター主催の展示会が開催されました。和興は自社商品である100%和紙の新素材【WASHI-TECH】とクオリティサンプルを持って参加し、そこでの出会いが海外へ挑戦するという大きなきっかけになりました。
その前段階として、そもそもなぜバンコクの展示会に参加することになったのか。それはアパレル業界に身を置いている者ならば誰もが持っているだろう、大きな危機感からです。
問題が山積する日本のアパレル業界の現状
まず、現在の日本のアパレル製造業はとても低迷しています。
それは1980年代、日本製品の縫製工場を中国に移したのが始まりでした。もう30年以上前のことになりますが、アパレルは国内ではなく、海外で作るという流れに切り替わっていったのです。新聞記事にもなりましたが、アパレルの輸入浸透率は98.9%まで来ています。つまり日本で製造されているアパレル製品はもう、全体の1%にすぎない。市場で出回っているアパレル製品が100枚あったら、メイドインジャパンは1枚しかないんです。
和興はメイドインジャパンをコンセプトに持つようなブランドさんを多く手掛けていたからか、そこまで悪化しているという肌感覚がなかったために、記事を読んでなんとも言えない気持ちになりました。
産業には第1次産業・第2次産業・第3次産業があります。第1次なら林業・漁業・農業、第2次なら採掘業・建築業そして我々のような製造業。第3次産業は定義としてはそれ以外なので、例えば介護ビジネスやIT関連も第3次。そうした日本の産業構造のバランスが時代と共に変化し、現在第3次産業が急増しているわけですが、これはおそらく第1次や第2次では稼ぎにくくなってきているからなんです。
そして我々はもうどっぷりと第2次産業なので、不安しかない。
和興の打開策
人口減少などの影響により、国内で製造したものを国内で販売する機会がどんどん減少しているアパレル市場において、今我々はどうするべきなのか。私は大きく2つの方向性を打ち出しました。
1つは、「私たちも第3次産業もやってみようよ」という考え方。日本の製造業の競争力自体がなくなっているのなら、スタートアップの伴走型製品開発を主とするコンサルティング事業などを始めて稼げるところに行こうという発想です。あと、WASHI-TECHのオリジナル製品開発を通じた小売り。小売りも第3次産業です。
そして2つ目にあったのが、市場を日本国内に限定せず「海外展開も視野に入れていこう」という考え方。日本のものづくりを、今、世界に発信していくべき時なんじゃないかとも思っていたんです。
でもメイドインジャパンという言葉だけではもう弱い。なら、どうするか。
ただ、たとえば日本製のTシャツとバングラデシュ製のTシャツを並べて、どっちが日本製でしょうと言われたら、正直言ってプロでも分からない。
なぜかというと、バングラデシュ製のTシャツは今や電子制御の最新型ミシンが設備されているので、ステッチの目はむしろバングラデシュのほうが均一で、運針もものすごく安定していたりするんです。
それに比べて日本は、設備投資ができない産業になってしまっているために、古いミシンをなんとか修理しながら使っている。その結果、圧倒的に効率が悪かったり、ちょっと癖があったりする。そんな中でメイドインジャパンの優位性をどう語るのかと、数年前から悩んでいたんですよ。どうやってメイドインジャパンを語るべきなのか、ずっと考えていたんです。
そうして悶々としていた時に、昨年(2023年)バンコクでの展示会に出展するお話をいただいた。両国にある、東京国際ファッションセンターの主催で、東東京にある製造業が中心となり、東東京をブランド化するイメージの展示会でした。
実際に行ってみて思ったのは、バンコクは日本から5〜6時間で行けて、時差も2時間、しかも体形も日本人に近くて、親日家が多い。日本企業がかなり進出しており、バンコク中で多くの店舗や広告を見ました。ただアパレルの参入はまだ目立っていなかった。商機があると感じたのです。
展示会は全3日間、バンコクの富裕層エリアにある商業施設で開催し、普通のお客さんからバイヤーさんまでかなり多くの方が来場しており、WASHI-TECHやクオリティサンプルの反応もとても良かった。それと、ギャルソン、イッセイミヤケ、アンブッシュ、サカイといった日本のドメスティック高級ブランドや若手ブランドへの興味がとても高いということも知ったんです。バンコクの方も憧れていたりするんですよね。
そこで思ったんです。バンコクにも高級ブランドがありますが、そういうところとのものづくりができるんじゃないかと。
後述しますが、実際に現地の高級ブランドからのお声がかかり、打合せから商談までに繋がった。そうした経験を日本に持ち帰ってきて、日本製の強みというのを改めてしっかり整理しないといけないと思ったのです。
バンコクを経た気づきと学びは「3つの和の強み」
2023年の展示会を経て、私は日本のアパレル製品をどうやって持っていき、どう伝えるべきかをずっと考えていました。
考えて考えて最終的に出てきたのが、この「3つの和の強み」です。
「生地」
まず1つ目は日本製の生地は優位性があるということです。原料はもちろん、例えばコットンはエジプトやカリフォルニアと原材料は海外ですが、ニッティング技術においては日本のテクニックは素晴らしく高いんです。例えば和歌山で作られた生地をエルメスが使っていたり、ルイヴィトンのデニムを岡山で作っていたりする。また、生地の開発においても日本は世界的に見て非常に技術が高く、帝人や東レなど、世界に発信できるユニークな機能性がある生地を開発している企業がある。日本の生地にはオリジナリティがあるんです。
「精緻なパターンメイキング」
2つ目はパターンメイキングがとても凝っていること。海外のパターンでももちろん素晴らしいものはありますが日本よりもシンプルなものが多い。直線的かつ縫いやすいパターンが多い傾向にあります。理由はやはり、効率を求める方向などがあるのかもしれません。対して日本の、特に私たち和興のパターンは、カーブはカーブで作るしアームホールは曲線で作る。人間の体は曲線でできているので、曲線で作った方が着心地が良いからです。それゆえの、直線だけではなく、着心地を考えたパターンメイキング、というのが2つ目の特徴だと。私たちの精緻なパターンメイキングは強みだと。
「ソーイング技術」
そして3つ目は、その精緻なパターンメイキングを形にするソーイング技術です。パターンがいくら優れていても、設計通りに縫製しなければ着心地の悪い服になっていくわけです。例えば海外の大量生産系の工場などの場合だと、やはり効率を求めるために直線的になってしまう。でも、日本ではそこをこだわっている工場が多いんです。そして実は、ここが日本製の1番の強みじゃないかと私は思っています。
目に見えるところではないけれども、着た時に「あれ?なんか着心地いいよね、なんでだろう?」みたいなところ。それがメイドインジャパンの強みなんじゃないかと私は思っています。
それらを突き詰めれば、着心地にかける真心と情熱に繋がる
私は、海外の工場もいろいろ視察したんですが、多くの工場ではどこもミシンがひたすら並んでいるんですよ。ミシンだけが並んでいる。それに対してうちの工場ではミシンの隣にプレス機がある。ミシンの横で必要な時にアイロンをかけながら縫うことができる。ジャケットを作るテーラー屋さんとかも必ずそうなっているんですが、アイロンで押さえてから縫うことって大切なんです。そうすることで、洋服の「顔」が良くなって……そう、洋服の顔が良くなるという言い方を我々はするんですが、そうした目に見えないところにも手ををかけることに、多分、日本製のこだわりとか、着る人のために何かを尽くすという精神が宿っているんじゃないかと想像するんです。でも、多くの海外の工場は極端にそういうことを嫌っているというか、省いていると思います。そしてその結果、着たら一発で分かるというぐらい、明らかに違う製品が仕上がるんです。それがメイドインジャパンの魅力だと私は思うんですよね。
今回はそれを「3つの和」という言葉で例えましたが、私が気付いていないだけで、きっと他にもまだある。だからさらに出てきたら、どんどん足していこうと思っています。
バンコクでの商談と成果
私はこの「3つの和の強み」を持って、つい先日(2024年6月)、再びバンコクへと赴きました。その結果、5日間で17件もの打合せを行うことができました。
どこも有意義かつ印象深い商談や打合せになったのですが、その中から了承を得たお話を、いくつかご紹介しようと思います。
抹茶カフェ「Ksana(ケサナ)」様より、ユニフォームと店舗オリジナルグッズのご依頼
2023年の展示会でご縁をいただいたKsana様は、京都・宇治に茶園を持つ茶問屋から仕入れたプレミアムなお抹茶を味わうことができる、バンコクの抹茶カフェ。今回の打ち合わせで決まったことは、新たにユニフォームを作りたいというお話でした。オーナー様と共同経営者様が、新たに店舗を2つ作るということで、そこを含めた全スタッフのユニフォーム作りをお願いしたいというお話です。素材は、弊社のWASHI-TECHが、Ksana様が目指しているコンセプトに合致しているという理由で、WASHI-TECHでの制作をご依頼いただきました。さらに、将来的には店舗での物販をしていきたいというお話もあり、まだ具体的な商品は決まっていないのですが、ハンカチやストールといったオリジナルのアパレル商品のお話も現在企画中です。
大型複合施設より、ポップアップイベントのご依頼
バンコク市場におけるアパレル関連の情報収集の場である大型複合施設が、今年(2024年)11月に予定しているポップアップイベントから参加依頼をいただきました。このイベントは毎年1回、大々的に行われている恒例イベントなのですが、そこに「出てみませんか」というお話をいただけたのは、本当に光栄なことです。出展は、和をコンセプトにしたブランドさんとのコラボレーションを企画中です。さまざまなご縁が繋がっていくことに嬉しい驚きを感じています。
デザイナー「GANON(ガノン)」様からもポップアップイベントのご協力
ガノン様は、世界中で芸術的かつ創造的な植物の見せ方を発信しているクリエイティブチームの方で、フラワーデザインから店舗デザインまで、いろいろなことに取り組んでいます。そして上記したポップアップイベントで和を表現するにあたり、イベントスペースなどの空間プロデュースを担当してくれることになりました。3者で1つのものを表現する。きっと大きな発信になる。もう楽しみすぎてワクワクしています。
アーティストブランド「onionbkk(オニオンビーケーケー)」様から、ボーリングシャツのご依頼
onionbkk様は、バンコクで音楽活動をされている、とても有名なミュージシャンのアパレルショップです。onionbkk様も去年の展示会で知り合ったんですが、日本のアパレルブランドをセレクトしてバンコクで人気のあるショップを展開されています。そのショップのオリジナル商品であるTシャツやボーリングシャツを日本製にする企画を進めています。とても嬉しいお話でした。
ファッションブランド「VVON(ブイブイオーエヌ)」様から、製品作成のご依頼
昨年の展示会からのご縁となるVVON様は、今回初めてオーナー様とお会いして、綿密なミーティングをすることができました。オーナー様のやりたいことや目指していきたい地点から、具体的なお話もできたので、求めているものを形にする製品を開発・展開することができるのではないかと思っています。今後がとても楽しみです!
バンコクのお菓子企業発アパレルブランド発進
バンコクにて大手のお菓子会社を営まれているオーナーご本人からのご依頼です。もともとファッションブランドの勉強をしていらしたそうで、洋服が大好きで、自分でアパレルブランドをやりたいのだと、日本製で作りたいのだとご相談をいただきました。お見積りからサンプル制作の段階に入るところなので、こちらも商品になるのがとても楽しみです。
アパレル業界の未来へと繋ぐビジョン
日本製とはつまり何なのか。日本製には、何が求められているのか
バンコクの方々が、日本製であること、メイドインジャパンであることについて、愛着や信頼性を持ってくださっているということを肌で感じたバンコク滞在でしたが、とにかくお会いした方々が国際的な活動をされている方ばかりで、そして私と同じ問題意識をお持ちだったことも再確認できました。
それは、「日本製とはつまり何なのか」という話です。
日本製という言葉自体は、実はもう手垢がついていて、日本製という言葉だけではもう売れていかないことを、今回お会いした皆様はもうよくご存じなんです。
だからこそだと思うのですが、今回私が持って行った「3つの和の強み」にとても大きく反応してくださった。メイドインジャパンの強みを分かりやすく伝えられたと思いましたし、とても共感してくださった印象がありました。
おそらく今回お話しした方々に、ただ「メイドインジャパンなんですよ」と言っても、伝わらないどころか見向きもされなかったんじゃないかなと思います。
でも、自分たちは何を大事にしていて、何を強みにしているということを分かりやすく言葉にすることで、伝わる。日本製の優れている点や大切にしている点を言葉として分かりやすく伝えていくことの大切さを改めて実感しました。そしてそれは、煎じ詰めれば日本製云々というよりも、「一緒にものづくりをしませんか」という話だったのだと思います。
ファーストペンギンで行こう!
繊維にまつわるスペシャルな技術を持っているような会社でも、調子が良くないという話はよく聞きます。業界的に厳しいのだから、それは間違いないのでしょう。ただ、その中でもうまくいっているところはあって、それはやはりブランディングをして、伝統工芸とか時代の中で大切にしてきたものを、今の流れにアレンジしているところ、まさに「不易流行」だと思うのです。
ほんの小さなアクションであっても、「あそこえらい頑張ってんね」とか「なんか変わったことし始めたね」ということが、業界にとってはとても重要だったりするのかなとも思い始めています。だからこそ繊維業界のためにも世界に出て、責任あるものづくりをするのだと、和興はどんどん挑戦していきます。
ある人から「ひろしはファーストペンギンになれ!」と言われたことがあります。ペンギンは縦に並んで順に海に飛び込む。その一番最初に飛び込む先頭のペンギンのことです。
つまり、安全かどうかも分からないのに先陣を切るという意味ですね(笑)。私は光栄だと思いましたし、これからもそうやっていこうと思っています。